創立55周年記念特別鼎談

海外の著作権

古沢

拙いかも知れないけど、オリジナルで考えている企画やアイディア、僕は結構いっぱいあるので、誰にも頼まれずに取りあえず脚本を書いちゃって、これがめちゃくちゃ面白い話だったら、これ一つ持って、世界中の制作者に会って、一番いい条件でやってくれる人に預けて……みたいなことをやってみたいと思ってるんです。

鎌田

ずっと思っていたら、必ず同じ思いを持った人に出会うよ。

金谷

できますよ、それ。そうですよね。

鎌田

ぼくも、映画の中でしか見たことがなかったニューヨークで、ドラマを、それも連続ドラマを作れるなんて思ってもいなかった。

古沢

そうですよね。

金谷

ただ、そうしたことを個人でやるっていうのは、やはり難しいですよね、なかなか。お仕事もあってとなると。

古沢

そうですね。

金谷

昔、CISAC(著作権協会国際連合)で自分の団体の管理著作物を売り込む研究をしたことあるんです。音楽が中心でしたが。だから、そういうネットワークの利用も今後、考えられるのではないかと思います。

古沢

原作者としての権利みたいなものを、どうにかして作れないかと思ってるんですね。特にオリジナルで作ったものに関しては、原作者でもあるわけだから。

鎌田

あるよね。以前、ぼくが書いた『天皇の料理番』の脚本を使って、再ドラマ化したことがあって、連盟に相談して、原脚本っていうことで、表示もされました。原作があってもなくても脚本そのものが原著作物なんです。

山本

他国のドラマの著作権事情っていうのは、どういうものなんでしょうね。私もほんとに、みなさんに世界に出ていただくといいなと思うんですよ。

古沢

いやいや、どうぞ(笑)。

山本

日本って、ずっと長いことアメリカのドラマしか見てなかったけど、韓国ドラマが流行って、北欧サスペンスが面白いと評判になったり、今はタイの『2gether』っていうBLドラマが流行っていたりとか。ドラマは世界中でいっぱい作られていて、日本にどんどん入ってきていますよね。日本のドラマももっと、世界に出て行くべきだなって。

鎌田

三年くらい前に書いた連続ドラマが、ニューヨークの由緒あるフィルムフェスティバルで、銅メダルだけど賞をもらった。海外に出ていくのは脚本だけでなく、スタッフ全員の視点が重要になるから、人の出会いが一層大事になっていくと思います。

古沢

そうですよね。

山本

海外の著作権関係ってどうなっているんですか?

金谷

連盟は今、ヨーロッパを中心に13ヵ国と著作権管理に関する契約を結んでいて、日本のテレビ番組が向こうで放送されたり、CATVで配信されたりした場合の使用料が払われているんですが、現段階ではアニメが多いです。

古沢

ちょっと前、僕、中国で書きませんかって言われて、映画の脚本を。で、書いてもらえたら、たぶん脚本料これぐらいですって言われた額が、それは日本の何倍かでしたけど。でも、権利とか全部持ってかれちゃう。2次使用料とか、もしDVDがすごく売れたらって思うと、そんなにおいしくないかもって、感じでしたね。

山本

制作費が全然違うんですね、やっぱり。

古沢

それは恐ろしく違う、違いますね。

鎌田

ものすごい高いんだよね、あれ。

将来の脚本家

金谷

日本の作品が海外に進出していくためにも、やっぱり将来の、新しい脚本家をどう育てていくかが重要だと思いますが。

鎌田

最近、育ってないのかな。

古沢

それは脚本が軽視されてる部分があって、本当なら脚本が面白いっていう評判になれば、人もお金も集まるし、それでヒット作になるのが一番いい。それは脚本家が頑張ればいくらでも面白くできるはずだから、お金とか関係ないですしね。それをもっとわかってもらって、脚本家が重要視されるようになったらいいなと思いますけども。

鎌田

「時代」の思想を先導している職業ってあるじゃないですか。建築家だったり、コマーシャルの人だったり、映画スターだったり。脚本家の時代もあったんですよ。脚本家の思想が社会全体の思想になって、みたいな時代があったんです。局も脚本主体で。脚本家シリーズっていうのがあったりしてね。

古沢

そうでしたね。

山本

図書館に、あの時代の方たちの脚本集がいっぱいあったんで、全部読みました。この仕事始める前に。ドラマ好きだったんですよね。面白くて、全部読みましたね。最近は、あんまり脚本集そのものが本として出てないんじゃない?

鎌田

脚本って、一般の人には読みにくいからね。ただ、「男女七人夏・秋物語」は珍しく売れて、担当の編集者が社長賞をもらった。

山本

昔は日本のドラマを海外がリメイクしてましたけど、今、逆になってますよね。やっぱり日本の脚本家が頑張って面白いものを書いて、もう一度脚本家の時代が来るようにしないと。

演出

金谷

日本のドラマの場合、ストーリーよりも好きな役者さんを見てるといった視聴の仕方も多いですよね。逆に外国のドラマだと、知らない俳優さんが多いので、純粋に話の面白さにのめり込めるっていう部分もあると思うんですが。

鎌田

日本では、話すときにカメラの方を見てる。アメリカ映画だと、ほとんど動きながら話している。

山本

お客さんの方を向いて、こうやって芝居をするっていうのは……。

鎌田

あれ、無意識に伝わってる日本の芸能じゃないかと思います。アメリカのエンターテイメントは、映画で始まってる部分が大きいから。

古沢

そうか。

山本

確かに『ER』とか、みんなずっと歩きながらしゃべってますよね。

鎌田

そうそう。

金谷

俯瞰の映像も多いですよね。パーンって引きの画面全体で見せるっていう。日本のドラマはアップがやたら多い。

山本

アップ、いつからこんなに多くなったんですかね。

金谷

テレビ大きくなってるのにね。

古沢

みなさんは演出に結構意見しますか。

鎌田

しっかりせっかく、集まってやる仕事なんだから、いろいろ言い合って仕事をしていかないとね。ぼくは、現場で問題が起きたら、どんなことでもいいから連絡してきてくれと言ってた。状況に応じて即座に直すから、と。

山本

一応、完パケとか見て、ここは違うっていう時は言います。その後も仕事が続くっていう場合は。

古沢

いや、コメディ書いてると、結構ニュアンスが違うなっていう、ある意味いかんともしがたいところがあって。

鎌田

コメディは、タイミングがあるからね。

古沢

そうですよね。

鎌田

掛け合いになるから。

古沢

どう言ったら伝わるのか、どう書いたらそう撮ってくれるのかもよく分かんなくて。

金谷

それ、ディレクターといくら打ち合わせても、思ったのと違う画が出てくること、しょっちゅうあります。どれだけ打ち合わせしても。

山本

完パケ見て、びっくりすること、結構ありますよね。

鎌田

コメディは、センス。

山本

コメディ以外のドラマでも、あっ、全然違うって思ったことあります?

古沢

基本的にはいつも違ってるんですけど。でも別に、これはこれでありだなって思うことも、解釈こっちのほうがいいなと思うこともあるんで。

山本

変えてもらって、得することも確かにありますよね。自分の想定より面白くなることもあります。

鎌田

俳優さんがこちらの想像以上にうまくやってくれてて、それで泣けてくるときがありますよ。全然、変わってないんだけど、セリフも芝居も。魂がこもってるというのは、あんなときかもしれない。

古沢

ほんと、そうですね。

鎌田

打ち合わせの時に、あまり話さない人ほど、現場で勝手に直したりする(笑)。

金谷

鎌田先生、そのとき後で言わないんですか、あれ違うねっていうことは。

鎌田

出来上がったものは、撮り直しとか言えないものね。二度と仕事はしないけど。

金谷

今は亡き友人の言葉ですが「脚本家はともかく、脚本には敬意を払え」って、まさにその通りだと思います。

山本

私、文楽が好きでよく見に行くんですけど、文楽って最初に必ず床本を一回捧げ持ってから語り始めるでしょ。あれ、たぶん芸事だから、神様に捧げるという意味もあるんでしょうけど、やっぱり床本は命なわけで、床本を捧げ持ってから語りだすっていうのが、ホンに対する敬意がすごく感じられて。あれを見るといつも羨ましいと思います。脚本も、大事にしてほしいなって。

金谷

羨ましいと思っちゃいけないんですよね、ほんとは。これが普通なんだって。

山本

そうですね。やっぱり私たちが何も言わないと、後に続く人たちが困るわけだから。

鎌田

言わないとね。